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「薫る(労働と学業)」

小沢健二の新しいアルバム「So kakkoii 宇宙」が11月13日に発売された。

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小沢健二の曲について、歌詞は、てらいがなく湿っぽくなく知性的で感性的で「優しい」世界の見方(多分にドライな面も含めて)をしていて、歌い方はまっすぐ一生懸命で、演奏ははねるように楽しく、好きだ。

 

すごく勝手なイメージだけど、彼の手のひらの中で丁寧に丁寧にとても「可愛い」ものがこしらえられている。

そして生み出されたものは少し変で不十分な気さえするのに、ただただその存在を肯定できて、不思議と悲しくないのに泣けてきそうになる(本当には泣かない)。

 

新アルバム「So kakkoii 宇宙」の最後に置かれた曲が「薫る(労働と学業)」。

この「形容詞(並列で名詞二つ)」というタイトルの書き方、何かを彷彿とさせるのだけど、うまく言えない。

漠然と、とてもアメリカっぽい?ちょっとモダンな詩っぽい?シュールな台詞っぽい?

ちょっとストレートすぎるくらいストレートな歌詞で、聞いている人で労働か学業をしている人だったら、自分のことをまっすぐ肯定された気がするのではないだろうか。

歌い手が聞く人の手を取り挨拶してくれるような、1対1の内面的な世界でもあり、天気雨の中を音楽に揺られて楽しく過ごしているようなお祝いの開かれた雰囲気もあり、どこか宇宙的な広大で価値の意味が無くなるような世界にも繋がっているような、とても面白い曲。

 

君が君の仕事をする時

偉大な宇宙が 薫る

 

君が君の学業をする時

偉大な宇宙が 薫る

 

勉強をしている時によく思っていたのが、「今この瞬間にしか私は生きていない」のではないか、ということで

将来のために、財産のために、資格を取るために、「勉強をする」というのは後付けでしかなくて全然楽しくなくて、ただその時のことしかしたくない人間なのだなということ。

今は暮らしていけるだけのお金がないと精神が安定しなく、そうすると集中力もなくなり色んなことを楽しめなくなるから、仕事って大事なんだな、と思っている。

それに小沢健二の新しいアルバムを何のためらいもなく聴けるのは、お金があるから。

なんて幸せなんだろう。

そしてこの曲はそういう勉強の姿勢もいいよね、と肯定してくれる気がした。

 

君が作業のコツ 教えてくる

僕の心はとけてしまう

それは 永遠の中の一瞬の

あるいは 一瞬の中の永遠の

喜びか?

 

こういうところの歌詞が、大きなことを成し遂げるとかではなく、本当にちょっとしたことの積み重ねを捉えて「神は細部に宿る」じゃないけど、細部に着目して愛情を抱いている気がする。

小沢健二の歌で巧みだな、と思うのが「言葉で畳み掛けるタイミング」。曲のクライマックス的なところを、過不足なく強調してエモーションの洪水を(あくまで品を失わず)聞く人に打ち付けて多幸感をもたらす。

そう、この人は「展開」がうまい。

 

 私が何となく好きなのは

 

それは 男性の中の女性の

あるいは 女性の中の少年の

あるいは 少年の中の老人の

喜びか?

 

それは 軟弱の中の硬派の

あるいは 繊細の中の大胆の

あるいは プレイボーイの中の初恋の

輝きか?

 

という反対語をどんどん繋げてたたみかけるように歌うところ。聞いていてとても楽しくなるし、ちょっと切なくなる。

多分、両極的なものこそどこか繋がっていて、その糸をたどっていくうち、いろいろな相反するものたちが共存する、矛盾の上にあるものを感じ取り、「喜び」や「輝き」の存在を(疑問形で)かすかに思うこの態度が「とても優しい」と感じるからだ。