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ウーマン・トーキング 私たちの選択

サラ・ポーリー監督「ウーマン・トーキング 私たちの選択」(2022)を見ました。

ルーニー・マーラベン・ウィショーが出てるので気になっていました。

フランシス・マクドーナンドも出ていたんですね。

ある小さな村というのか、小さな共同体で女性たちは朝起きると自分の体の異変に気づきます。馬用の麻酔薬で気絶させられて夜な夜な女性たちがレイプされていたのです。しばらくの間、それは悪魔の仕業であるとか女性たちの気のせいだとかされて有耶無耶にされていましたが、犯人グループが判明し町の警察に連れて行かれます。男性らが保釈金を払いにいっている間、村に残っていた女性たちは自分たちがされていたことについてどう対応するか(許すか、戦うか、この村を去るか)を話し合う、その場面が映画の主軸となります。

あまり前情報もなく見ていたので、最初はこの映画の時間設定が謎で気になりました。

服装や髪型、建物の雰囲気などが相当昔に見えるんですよね。しかも女性たちは文字が読めない。開拓時代?と思いつつ、いくつかの家のダイニングキッチンが映し出されるシーンがあるんですが、冷蔵庫などあり割と近代的に見える。少なくとも戦後?いやこのキッチン設備を見るとそれより数十年は経っている感覚だな、にしても女性たちの服装が古すぎる。農奴的扱いをされて時代から取り残された共同体の話かな、と思っていたところ、村を通る車のスピーカーから流れる「2010年」という言葉にびっくりしました。

まさかの十数年前の設定だった。いやーだって、2010年って言ったら、ハイテク機器に取り囲まれてスウェットとか着てる人でしょ...この生活を21世紀も10年近く経ってからしてるとこがあるのか...

あとで調べると、実際に2010年にボリビアで起きた事件をもとにした話で、生活スタイルをどれほど近づけているのは分からないですが、隔絶された宗教的共同体であることより、ある程度は近いのではないかなぁと思っています。

現代的な価値観でいえば、しかるべき裁きと女性たちの安全確保と思いますが、この共同体の特異性(女性たちに教育が施されていない・完全に従の立場)からすると、根本的にこの村で女性たちは安全に自分らしくは生きていくことはできないのではないかと思いました。

終始「夜明け前」みたいなカラートーンで、個人的に好みですが、確かにこれは文字通り「夜明け前」の話なんですよね。

最終的に女性たちは出ていくことを選択します。それがどれほど現実的な選択なのかはクエスチョンですが、「出エジプト」を彷彿とさせるその場面は映画としては崇高なものに見えました。ルーニー・マーラ演じるオーナが最もいわゆるリベラル的な考えの持ち主に見えましたが、出ていくことが逃げることではない、距離をおくことで赦す視点も生まれるのではないか、と言いました。また、女性たちは、赦すということは強制されてできるものではないのに、現在の状況で男たちを赦すということは強制性を免れないし、「許可する」ことと混同されうるものになるのではないかということなどを語り合っていきます。実際にこの犯罪行為を行っていたのは一部の男性ではあるが、この村の脈々と受け継がれる(無)教育がそれらを生み出し、子どもたちもそうなってしまうのではないかということ。話している女性たちの中で武闘派は1人くらいだったと思いますが、相手に制裁を加えることによって宗教的に罰されるのでは、と特に年長者は話していましたね。戦う、つまり暴力によってねじ伏せることは難しい現実もあると思うけど、殺してもいい、と思えるくらいの憎しみを対話によって分解している感じはしました。それぞれの女性がこの犯罪行為の被害者であり、それに対する反応の仕方はそれぞれだけど、その苦悩はみな同じくらい深いものだということは、見ているとわかります。ただ武闘派の女性は村を出ていく際に武器になりそうなものをいくつか持っていっていましたし、自分の息子を馬用麻酔(!)で気絶させて連れていっていましたので、この変わらなさをちゃんと描くところが、なんというか、うーん、ただ、多分私自身そんなに寛容ではないので、この憎しみと攻撃性を理解できるような気がするから、判断を留保したいところにはなります。

文字を読めない彼女たちの対話において重要になるのが、書記です。

ベン・ウィショー演じる、過去に村を追放された一家の息子オーガスト(大卒・「農夫くずれの教師」)がその役目を担います。かわいそうになるほど善良な人間で、母親もこの村に疑問を持っていたことから村を追われることになったといいます。インテリで女性の社会的存在を理解している「弱き男性」、まさにうってつけの人材で多少都合がよいような気がしますが、そんな見方を上回るほど、ベン・ウィショー演じるオーガストはすごくよいです。

村に残ることになっていたオーガストの、女性たちとの別れのときに涙が出ました。

オーガストとオーナとの交流がすごくいい場面ばかりで、だから、このブログには書きません。

オーガストが「善のリスト」を作っている場面の素晴らしさ。最後の「women」で深く息を吐くような感動がありました。

一番最後に武闘派の女性と別れる際、身を守るためにと拳銃を手渡すのです。つまりオーガストは皆を見送ったあと自殺するつもりだったんですね。女性も察して「死んじゃダメよ」と言うのですが、そのときのオーガストの泣きながら笑っているような顔に、心が締め付けられました。