hiro

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Perfume

中田ヤスタカの作った曲の歌詞ってなんか不思議で安心するなと思う。

初めて存在を知ったのは、やはりPerfumeの「ポリリズム」が流行った2007年。 

その時印象に残った歌詞は

あぁプラスティック みたいな 恋だ

歌詞が心に残るというのはやはり、「その時の空気」みたいなものがうまく表れた時だと思う。

つまり、2000年代半ばの若い子の空気は、ちょっと人間離れした、淡々とした甘さ、だったと思う。

 

それからcapsuleをよく聴くようになった。

上京する前の私はcapsuleに東京を重ね合わせていたし、都会への憧れはcapsuleの音楽に表象される何かを通じて醸成された。

今思うとつまらない、色々なことに悩んだりしたけど、それが音楽を聴くと思い出される。

感傷に訴えかける他にも、延々とイヤホンで聴いていても飽きないし、何回も何回も聴くことでそれまで聴こえてこなかった色んな音が聞こえてきて,

その仕掛けに気付くたびに嬉しくなった。

一つ一つの音を分解して、こういう効果にしてるのか、というのが、音楽を聴くというよりおもちゃを分解してさらに楽しくするみたいな感じだった。(音楽に疎いので何回も聞かないと分からない)

また、同じ曲をリミックスしたりいくつも別バージョンがあるのも楽しかった。

曲を1つまるまる聴くことで気づくこと、アルバムを1枚聴くことで分かることがはっきりしていて、それが面白かった。

また実物のCDに施されている物質的な仕掛け(つるつるの歌詞カードにエンボス加工とか、透明なシートが何枚も重なって一まとめにすると完成するとか、歌詞カードを付けていなかったりとか)も凝っていて、触るたびにときめいた。

だから歌詞だけが面白いわけじゃないし、意味を持たないフレーズの繰り返しや歌詞のない曲も多いので、おそらく歌詞は音楽においてあえてそれ以上の意味を持っていないけど、今回は歌詞のことを。

 

周期的に中田ヤスタカが携わっている音楽(capsule,Perfume,きゃりーぱみゅぱみゅ,鈴木亜美,COLTEMONIKHA...)をよく聴く時期が来る。

それで思うのは、この人はきっとビジネスライクに歌詞を書いているんだろうけど、時々ふっと力が抜けるような、そして自身の好みが反映されるような歌詞があってそのバランスが絶妙なんだろうな、ということ。

 

「dreamin dreamin」はcapsuleのかわいい部分が凝縮されたような曲だけど

この世界でたった一人で

うずくまってほほえむよりも

歩き出して

泣ける方がいい

 

まっすぐな目で見つめられて

心の自由がきかないの

という、少しクリシェ(決まり文句)的な歌詞ののち

恋をするっていうのとは

ちょっと違うけど

少しどきどきした

の、クリシェ路線を継承しつつ最後に少し落とす感じ。

これがボーカルこしじまとしこのシルキーな声で歌われるのだから、たまらない。

ハ行とタ行の音で少しかすれるような効果が入っている気がする。

「恋をするっていうのとは ちょっと違うけど」というのだから、恋をするほど対象のことを知らないし責任も持たないけど、シチュエーション的には「どきどき」するわけで、でもきっと次の瞬間には違う気持ちになってるかもしれない、そういう軽くて調子がいい、その場その場の、でも「本当」の感じ、というのをぐっと形にしているのがいい。

J-POPの歌詞はどうでもいいことを(もしくは切実な思いを)重苦しく描くのは好きだけど、こういう軽さをさらっと真面目に言っているのは本当いい。

 

Perfumeの曲はだいたい歌詞がついているので歌詞のことを考える余地があるのだけど

音楽性に合わせた、機械仕掛けの女の子が人間的な感情に目覚めて戸惑いつつもその感触を丁寧に歌っている、というのがすごくはまっている。

まだ言葉をたくさん知らないアンドロイドだから表現もどこかクリシェっぽく、だが機械的な言葉のランダムで一生懸命な組み合わせにより、生身の人間からは出てこないような意外な表現が時々出てくる、みたいな感じ?

 

Perfumeの3枚組のベストアルバムが去年発売されて、一曲目に置かれた新曲「Challenger」にはちょっとびっくりした。

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実はPerfumeの曲群には最近はマンネリズムを感じてて、あまり期待せずに聴いていた。

そして特別新しいことをしているわけではないけど、すごく心に届くのだ。

それは、言葉遊び以上ではないのではないかと思っていた「歌詞」に10年以上かけた歳月の重みによる「何か」が加わったことによる。

 

眩しい期待が君を君を燃やす

僕ら若すぎて気づかずにいたけど

夢を見捨てないで 涙で未来がぼやけても

 

どうにかなりそうなくらいがむしゃらだった日々

10年後きっと僕は楽に生きてられるはずと

寝るのが怖いほど何かしてなきゃいられなくて

 

こんな歌詞が中田ヤスタカから出てくるなんて!

と思ったのと同時に、走馬灯のように自分のこの10年の思いが巡ってくるような気がして

思わず目をつぶってしまった。

個人的に別に特別たいそうな思いや苦労を抱えて生きてきたわけじゃないのに

この曲がストレートに伝わってきたのは、魔法みたいだなと思う。

 

それでも何だか

眩しい期待が君を君を燃やす 

僕ら若すぎて気づかずにいたけど

というところで

何も知らなく、何かにすごく期待し憧れることができた頃

寝るのが怖いほど何かしてなきゃいられなくて

というところで

寝るのが惜しいくらい何かを成し遂げたい強気、とでもいうべきものがあった頃

を思い出してしまった。

そして

夢を見捨てないで 涙で未来がぼやけても

というシンプルなメッセージを

10年以上経ってもまっすぐ伝えられるのがすごいな、と...

そこに

10年後きっと僕は楽に生きてられるはずと

という「抜け」。

「楽に生きてられるはず」というゆるめのワードが本当に中田ヤスタカぽいなと思う。

「少しドキドキした」にも似た、ある時点で止めちゃう感じ。

そんな「抜け」のオブラートに包まれつつも、やはりこの曲のメッセージは力強い。

これからもPerfumeは進み続けていくよ、という夢を見させてくれる。

そこから始まる51曲にまたどんどんハマってしまう。