キリアン・マーフィーという俳優がいる。1976年生まれ、アイルランド出身だ。
特徴的な美しい瞳を持ち、冷静でありながらドラマチックな魅力のある演技をする俳優だと思っている。
この写真だと、宝石のような透き通る青い瞳(言い過ぎではないのだ)が分かりにくいけれど、数々の映画で彼の瞳を強調したシーンがあって、その瞬間、時は止まる。
「プルートで朝食を」
「麦の穂をゆらす風」
「ダークナイト」
「白鯨との闘い」
「ダンケルク」
といった映画に出ているが、作品を並べるとやはり硬派、かなり選んでるんだろうな、浮ついた映画には出ないのね、という印象。
最初の2作はアイルランド独立問題を含んでいる。
また、イギリスのドラマシリーズ「ピーキー・ブライダーズ」で主役として伝説のマフィアのボスを演じたりしている。これもまた面白い。
ルックスがかなり良く、優男に振り切ればかなり甘くなると思うが
役柄的には「男らしさ」「クールさ」「風格」といったものを追求し、結果成功している。
おそらく性格もシニカルさを伴ったストイックさがありそう。これだけ世界的に有名な俳優でも、私生活で騒がれるタイプではないのがすごいなと思う。
さてそんなキリアン・マーフィーの出演映画「ハイドリヒを撃て!」(2016年)を見た。
見ていて苦しくなる、とても重くて緊張感のある映画で、クライマックスの20分以上ある銃撃戦の凄まじいこと。
それでいて抑制された演出が非常に好みだった。
多くの人々の虐殺を指揮したナチ高官ラインハルト・ハイドリヒの暗殺任務を受けた二人の男が主人公だが、彼を暗殺するまでも地獄、暗殺した後も地獄、という戦時下の理不尽さ、悲しさが映される。
この映画の基になった「エンスラポイド作戦」を調べれば分かるが、残虐・悲惨としか言いようがない題材だ。
キリアン・マーフィーの存在感は素晴らしく、彼の登場するシーンがどれもよい。
ラストシーンにおける「水」「地下に差し込む光」「キリアン・マーフィーの青い目」といった要素がかみ合った時のこみ上げる何かは言葉にできないだろう。
シーンとして非常に美しく、だがしかしどこまでも悲しい。